A.1
個別の事情によりますが、単独親権と監護者指定を得ていても、共同親権になる可能性がないとはいえません。
ただ、現在、離婚後単独親権になっているケースにおいて、共同親権を認めるためには、決められたときの経緯や事情の変更などを考慮して、子の利益のために必要があると認められる必要があります(改正後の民法819条8項)。双方の合意のない状況での共同親権への変更については、子の利益のために必要があるかどうか、より一層、慎重に見極める運用を行う必要があるでしょう。
A.2
可能です。
現行法でも手続きは可能です。ただし、親権喪失には、「父又は母による親権の行使が著しく困難又は不適当であることにより子の利益を著しく害するとき」という要件が必要であるため、裁判所により認容されるのは、この要件を満たす程度の虐待等が存在する必要があるので、かなり限定的です。
A.3
改正された民法では、裁判所は、
①父または母が子の心身に害悪を及ぼすおそれがあると認められるとき、
②父母の一方が他の一方から暴力等を受けるおそれの有無、親権者の決定、親権者の変更についての協議が整わない理由などを考慮して共同親権にすることが困難であると認められるとき
など、共同親権とすることにより子の利益を害すると認められるときは、単独親権と定めなければならないとしています(改正民法819条7項)。
DV、モラハラなどがあり、両親が子どものために協議、協力することが困難であることについて証拠を残しておきましょう。具体的には、録音、メールやLINEのやりとり、写真、診断書などになります。日々の出来事をメモしておいたものも証拠になります。メモを付けることは、自分の状況を客観的にとらえたり、気持ちを整理したりすることができるのでおすすめです。
A.4
原則共同親権に改正したものではありません。今回の法案は、これまで離婚後は父又は母のいずれかが親権者となる選択肢しかなかったところを、離婚後も父と母双方が親権者となる選択を可能としたものに過ぎません。法制審議会でも、原則共同親権ではないということが繰り返し確認されてきました。
また、民法改正をめぐる国会審議では、①共同親権とすることは原則ではなく、単独親権を主張することができる、②父母に共同親権の合意がないことは、裁判所が単独親権を選択する重要な要素となる、③過去にDV・虐待があった場合は単独親権とすべきであるなどの重要な答弁がなされました。
裁判所の判断基準を定めた改正民法819条7項は、Q3で説明したように、共同親権とすることにより子の利益を害すると認められるときは、単独親権と定めなければならないとしていますが、基本はこれまでと同様に、子の利益の観点から監護状況や子の意思、両親の関係性などから総合的に判断することとなっています。虐待やDVのことが記載されていますが、例外を意味する「但し」という接続後が使われず、「この場合において」という言葉を使っていることからも法律的には、原則共同、例外単独でないことは明らかです。
したがって、この通り改正民法が運用されていくならば、共同親権が原則であるという状態にはならないでしょう。しかし、油断は禁物です。裁判所による親権者の指定を注意深く監視していく必要があります。
A.5
共同親権か単独親権かは子どもごとに決めることができます。
裁判所が親権者を指定する際に、きょうだい不分離の原則(きょうだいは分離せず、一緒に養育されることが子の福祉に適うという考え方)が考慮されるといわれています。しかし、きょうだい不分離の原則は絶対ではないので、子ども一人一人についてどのように親権者を定めるのが良いのかが議論されることになると思われます。下の子が加害者親に懐いているというケースの場合でも、共同親権とすることにより下の子の利益を害することにならないか、が協議されるべきことになります。
A.6
条文上は、「『父母の一方が他の一方から身体に対する暴力その他の心身に有害な影響を及ぼす言動を受けるおそれの有無』を考慮して父母が共同して親権を行うことが困難であると認められるとき」には単独親権と定めなければならないとされています(改正後民法819条7項)。附帯決議でもDVに関する裁判所の知見を高めるよう求めています。
しかし、DVの立証が出来なければDVとは認められないでしょうし、DVの立証ができた場合であっても、将来のおそれですから、相手が「反省しています。もうしません」と述べた場合に、この条文が適用されるかは予断を許しません。精神疾患を発症しているとしたら、精神科の受診をされていると思われますので、相手方の言動によって辛かった事、苦しかった事、それがストレスの原因であることが分かるように話を聞いてもらって診療録に残してもらうようにしましょう。場合によっては、意見書を書いていただくことも検討したらいいと思います。
また、審理の過程では、共同親権に同意がない場合は、単独親権にする方に傾いていますから、共同できない理由を具体的に述べて、安易に同意することがないように納得できるまで話し合いましょう。
A.7
施行日後は、改正法が適用されます。調停や裁判が係属中でも同様です。
改正民法の附則に規定(経過措置といいます)があります。
改正後は新法が適用されるので、調停や裁判が係属中でも、離婚後の親権について、施行後は共同親権が選択肢になります。親権変更の申立が施行前にあったが施行日までに結論がでない場合、施行前は単独親権から単独親権への変更だけだったものが、施行後は共同親権への変更も可能になります。
一方で、養育費に関する先取特権は、施行後の給与債権から適用があり、法定養育費も施行前に離婚が成立した夫婦には適用されません。財産分与の期限延長も施行前に離婚が成立した夫婦には適用されません。
A.8
あなたが共同親権は無理だと思っておられる理由がよくわからないので断定はできませんが、双方の親がそう思っているのであれば、共同親権にはならないでしょう。双方が2人の親権を取りたいと考えて争う場合でも、その過程では、お互いに相手方がいかに親権者として不適格かを主張しあうことになるでしょうから、裁判所も共同は無理だと考えるのではないでしょうか。
問題は、相手が共同親権を主張してきた場合です。ご質問によれば、あなた自身も相手方がすることには拒否権を行使すると決めておられるような感じがあります。初めからその様な姿勢では、子の利益を尊重していないと感じられます。これまでどんなことで意見の対立があり、それをどのようにして解決したのか、あるいはできなかったのか丁寧に主張する必要があります。これまでの意見の対立とそれによっていかにお子さんが困った事態に陥ったかが、共同できないと判断される事情となると思われます。
裁判所は、現に起っている問題を解決する所で、その後のことにはノータッチです。基本的に責任を取ってくれるとは期待できません。
A.9
子の引き渡しが求められているということは、監護者指定の申立が、離婚調停とは別にあるということでしょうか。
離婚調停の中で、親権や監護者の指定が問題となっているのであれば、その点をしっかり協議して決めることです。合意できなければ、調査官調査が行われて調査官が意見を述べるということもあると思いますし、それでも決まらなければ、親権については離婚訴訟を提起して裁判所の判決で、監護者については審判で判断してもらうことになるでしょう。
いずれにしても、あなたが親権者・監護者としてふさわしいことをしっかり判断してもらうことが重要です。そうすれば、離婚をした後に、むやみに親権者変更がされることにはならないと思います。
A.10
親権者を誰にするかは、子の利益のために重要な事項です。よく考えて決めましょう。
その他、離婚の時に決めるべきことは沢山あります。
改正(共同親権導入)前に離婚して単独親権となっても、改正後に親権者変更の申立により共同親権に変更すべきとの申立はできます。したがって、今稚拙に決めるより、時間がかかってもきちんと議論し、合意ができない場合は裁判所の判断を仰ぐなどして慎重に決めましょう。
相手が離婚に応じない場合、何かをすればできるというものではないと思われます。まずは、あなたが離婚したい理由や決意を相手に理解してもらう事、あるいは、相手が何故離婚したくないのか考えましょう。あなたの決意を示す上でも、別居する、調停の申立てをするのは一つの方法です。
A.11
必ず共同親権にならないとは言えません。
しかし、親権者の決定に当たっては、「子の利益のため、父母と子との関係、父と母との関係その他一切の事情を考慮しなければならない」とされており、この一切の事情の中には子の意思も含むとされています。
国連の子どもの権利条約でも、子どもは権利の主体であり、自分の意見をまとめる力のあるすべての子どもに対して、自由に意見を表明する権利を保障し、その年齢及び成熟度にしたがって正当に重視されるとされています。すべて子の意思のとおりではありませんが、子の意思を尊重しながらも、子の利益のためにはどうしたらよいかを裁判所が判断するのが原則です。
A.12
10歳や、15歳という年齢で判断するのは、その年齢の子どもには自分のことについて、状況を理解し一定の判断をする能力があるとされているからです
障がいがあるお子さんの場合は、実年齢ではなく、そのお子さんの状況によって判断することになると思われます。うまく意思表示できなくても、日常生活やお子さんと父母それぞれとの関係を見て、どちらに親和性があり、子どもが安心して生活できるか判断されると思います。
A.13
一般論でいれば、日常行為とは「日々の生活の中で生ずる身上監護に関する行為で、子に対して重大は影響を与えないもの」とされています。身近なところでは、今日何を食べるかとか風邪をひいたから病院に行くなどの行為です。塾や学童保育に行くなども日常行為の例として挙げられています。
一方、どこの高校に行くかということは重要行為として共同で決めなければならないとされていますが、申し込みの期日が迫っているような場合は、日常行為としてではなく、急迫の事情があるという理由で単独で行うことができます。
重要な行為(非日常行為)で急迫とも言えない場合には、家庭裁判所に親権行使者を決めてもらう制度が導入されましたが、家庭裁判の今の体制で間に合うように決めてもらえるかはまだわかりません。しかし、申立をしても決まらず、期日が迫ってしまった場合は、急迫の事情として認められると思われます。
A.14
明らかに子の利益に反している場合という内容・程度によります。また、親が離婚又は死別していて単独親権の状態か、あるいは婚姻中の共同親権下かによっても異なると思われます。親権停止が認められるのは「父又は母による親権の行使が困難又は不適当であることにより子の利益を害するとき」と定められています(民法834条の2)。ご質問は不適当である場合だと思いますが、現在の裁判所の判断で親権停止に至る場合は、身体的、心理的、性的虐待やネグレクト(食事をさせない、病気でも医療を受けさせない)など、かなり重篤な場合に限られています。
例えば親が一人しかいない場合で、その親(親権者)が理由もなく未成年者の契約などに必要な同意を与えないために子どもが就職できないとか一人暮らしのためのアパートを借りられないというような場合、親権を停止して未成年後見人を選任する場合があります。
しかし、親権停止は最大でも2年ですから、他に親がいる場合(監護意欲がある場合ですが)親権者変更が可能です。離婚後共同親権が導入された場合でも、共同親権から単独親権への変更が可能なので、そのほうが実際的ではないかと思います。